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当講座について

村上 寛
信州大学医学部 周産期のこころの医学講座 講師

今、医療関係のニュースは、何らかの「数」に関係するニュースが多くなっています。コロナウイルス感染症の新規感染者「数」の増減、ワクチンの入荷「数」の増加、出生「数」の低下、などなど。その「数」によって、人々は安心したり、不安になったりします。しかし、少なくとも周産期メンタルヘルスの領域では、「数」よりも「質」を重んじる必要があると考えています。周産期とは、決して赤ちゃんが生まれてくる喜びだけで説明できる時間では無く、その家族、そのパートナー、ある時は妊婦たった独りの、それぞれの苦しい時間や辛い時期ともなり、その苦しさや辛さは、それぞれによって全く「質」が異なります。

私は精神科、周産期メンタルヘルスに携わる医師として、日々、周産期の妊婦さん、その家族、パートナーの方々と診察室でお会いし、妊娠、あるいは出産後の、それぞれの心の叫びの一端を共有します。ただ、コロナ禍においては、心の叫びの「質」が変わってきたと受け止めています。ソーシャルディスタンスにより他人との接触が絶たれてしまったことで、24時間のうち、診察室でのわずか数分しか、心の辛さを表出することが出来ない妊婦さん、更には、コロナ禍で診察室や地域の支援に到達すらできない妊婦さんが増えています。妊婦さん本人だけではなく、将来の父親として妊婦を支えようとする夫やパートナーも、コロナ禍で今まで以上に仕事上の問題などを抱えています。また、心の問題だけでは無く、例えば遺伝子疾患や精神疾患を背景に持つ女性が、妊娠を希望するのかしないのか、あるいは妊娠中に薬を飲むなどの治療をするのかしないかなど、「意思決定」に至るプロセスも、脆弱になりつつあります。しかしそれは、放置すれば結局心の問題として返ってくることです。

こうした現状の中で、一人一人、あるいは一つの家族、一組のパートナー。それぞれの苦しさや辛さに真剣に寄り添いながらも、世間に状況を正確に伝え、今の状況を少しでも良い方向に改善するためには、大学病院に勤務し、周産期メンタルヘルスに関わる医師として何をするべきなのか、私は真剣に考えました。考えたことは主に次の2点です。

  1. 周産期メンタルヘルスという領域は、病院内では精神科、産婦人科、更に小児科、出生前診断を扱う遺伝医学など、病院外では、行政、助産師、その他の支援者など、病院内外複数の人間が関わる領域であります。しかし現在の大学医学部の科別の縦割りの医局体制では、特にコロナ禍の周産期メンタルヘルスの科学的、効果的な分析は困難であり、大学医学部においても、各教室同士の横のシームレスかつスピーディーに情報を共有する場の設定が急務と考えました。
  2. また公共政策面においても、コロナ禍でダメージを受けている、妊婦〜保健師〜行政~医師、あるいは、小児科、乳児院、児童相談所との繋がりの確認・再構築が必須であると考えました。

まずは 1. に関しては、やはり中心的な役割を担うべきは各都道府県の国立大学医学部、長野県では信州大学医学部が担うべきであるのは当然と考えました。2. に関しては、例えば長野県松本地域では、既に地域の助産師さんや行政の方々が集うコミュニティが存在しています。なので、そのコミュニティの方々が周産期メンタルヘルスの領域に関わる上で何が今問題なのか、大学医学部がお手伝い出来ることは何か?を考え、実行する上では、大学医学部に周産期メンタルヘルスを専門に取り扱うチームが必要と考えました。

そこで、外部から寄附金を頂戴し、信州大学医学部に寄附講座を設置する手法を考えました。寄附を求めてプレゼンテーションを行ったところ、幸いにも熱意に共感してくださった方から個人寄附を頂くことが出来、寄附講座を信州大学医学部に設置することが出来ました。特任教授には成育医療研究センターの立花良之先生をお迎えしました。

今回の講座、私だけでは到底太刀打ち出来ないプロジェクトです。しかし、精神医学教室だけでは無く、子どものこころの発達医学教室、産科婦人科学教室、小児医学教室、更には遺伝医学教室の教授陣や先生方が講座の協力教員として、講座のサポートを約束してくださいました。この講座を通じて、信州大学医学部の総力を挙げて周産期に関わる人々に真剣に寄り添います。また、周産期メンタルヘルスに関わる支援者の皆様に対して、微力ながらお手伝いをさせて頂きます。その結果、周産期に関わる人々を少しでも癒すことが出来たら、と強く願っております。